こんばんは。滋賀県栗東市の「栗東よしおか小児科」院長の吉岡誠一郎です。
子どもの発達障害や精神疾患を小児科が診るか精神科が診るか問題は、ずっと以前からあるのですが、そもそもの医師数が精神科より小児科の方が多いことや、患者や家族にとっての受診ハードルの高さからして、現在は圧倒的に小児科医の中でも専門知識がある医師が診ていることがほとんどのようです。
気を悪くされる方がいるかもしれませんが、私が発達障害診療を勉強し始めた頃は小児科医の中でも小児の発達障害など精神疾患診療は敬遠されていました。そもそも疾患理解が難しいし、治るということがほぼないし、診療に時間がかかるし、家族とのトラブルも多い(家族も発達障害であることも多いため)し、そこに絶望的に診療報酬が低いのもあって、自分から専門にしたいという先生はほとんどいませんでした。小児神経科は本来てんかんや神経筋疾患を専門にしていて厳密には発達障害は専門外ですが、他の分野よりも脳神経を扱うという点で、誰も診る人がいない環境では止む得ず発達障害を診ることになり私もその一人でした。たまたま当時働いていた職場の隣県で、有名な専門の先生が外来をされていたので、そこで勉強することが出来たのはラッキーだったのですが。
当時、あまりにも他の小児科医が発達障害を嫌がるのにうんざりしてて、それを他の地域で同じような境遇の小児神経科の先生に愚痴っていたら、「小児科医って、バカな子が嫌いなんだよね」って言う先生がいて、超爆弾発言ですがそのときは凄い腑に落ちてしまいました(絶対そんなことはありません、その時の私の精神状態が故です)。確かに小児科がドラマやドキュメンタリーになるのって、血液腫瘍疾患の賢くてかわいい子どもの患者さんとの心の交流とか、NICUや小児救急で幼い命を救っただのばかりで、暴れまわって会話も出来ない子どもの診療なんて見向きもされてなかったし、たまにあっても自閉症だが天才的な能力を持つ人のドラマとか到底現実的ではないものしかなかったですしね。ああいうのを見て小児科を志しても、発達障害診療に憧れたり興味を持つこともないでしょうね。
個人的に親しい精神科医がほとんどいないので、精神科全体における子どもの精神疾患(児童精神領域)ってどんな感じで捉えられているのかよくわからないのですが、児童精神を専門にする先生は非常に少ないことは事実です。多分、精神科でも子どもは敬遠されてるのかなと思います。子どもにもうつや強迫性障害などがあるし、薬物治療が必須の状態であったり、自傷他害の危険があるときは、ちゃんと精神科で学んできていない小児科医には治療の引き出しが少な過ぎて不安になります。先日、県内で積極的に子どもを診てくれていた知り合いの精神科の先生が亡くなったという知らせを見ました。その先生とは治療方針の点で私と合わない部分が多く、私自身少し距離を置いていたのですが、その先生に救われた患者さんも少なくなかったと思うし、貴重な先生がいなくなってしまったことをとても残念で悲しく思っています。
少し前から最近の話をすると、以前よりも子どもの発達障害や精神疾患診療を志してくれる若い先生は増えているようです。しかし、それ以上に患者さんが増えていて医師だけでは追いつかないので、出来るだけ教育現場で対応するという方針になっています。私は小さい頃からのかかりつけ患者さんに限定して、発達外来を続けていますが、それでもそれなりのボリュームになります。今後も需要は増えていくであろう領域なので、小児科医、精神科医だけでなく、子どもを扱う学校、幼稚園での非医療者も知識や経験を充実させていくことが重要と思っています。