栗東よしおか小児科の院長ブログ

滋賀県栗東市で小児科医院を開業しています。小児の発達、小児の病気、開業準備のことなど書いてます。

脳の機能異常のために気が付いたら動いてしまっている子に、言い聞かせて出来るようにさせようとするのは

こんばんは。滋賀県栗東市の「栗東よしおか小児科」の吉岡誠一郎です。看護師、医療事務、脳波技師ともにまだまだ募集中です。

 

発達外来は新患をストップしているのに発達障害に関して記事を書くのは気が退けるのですが、需要があるみたいのなので、たまには書こうと思います。自閉症スペクトラムASD)はそれそのものを理解するところからして難しい上に、患者さん個々でも大きく異なることが多いので、一律にどう対応するかを論ずるのは難しいのですが、ADHD(注意欠陥・多動障害)は比較的理解しやすいです。ADHDASDが併存している子も多いので簡単ではないですが、今回はADHD(特に多動優勢)のみあってASDや知的障害(MR)の要素が少ない例に関して考えてみようと思います。

 

通常私たちは目や耳から入ってくる情報・刺激を、ほぼ無意識に脳で必要か不要かを判断して生活しています。周りで話をしている他人がいても、テレビがつきっぱなしでも、目前の会話相手の言葉を理解することが出来ます。ADHDの子たちはそれが難しい、どんどん入ってくる視覚聴覚の情報・刺激を脳で上手く処理できない、それで気が付いたときには目前の会話相手をそっちのけで、刺激にまっしぐらに向って行ってしまいます。ポイントは気が付いたら動いてしまっているというところです。保護者や先生たちはADHDの子に、席から立ち歩いてはいけません、列から離れてはいけませんと、懇々と言い聞かせるかもしれません。そのときは彼らは素直に聞いてても、再度実際に現場に入ると刺激に引っ張られて、立ち歩き、列から離れてしまいます。もう一度言います、気が付いたら動いてしまっているのです。

 

脳の機能異常のために気が付いたら動いてしまっている子に、言い聞かせて上手く出来るようにさせようとするのは、眼の見えない人によく見るように言い聞かせること、耳の聞こえない人によく聴くように言い聞かせるのと同じことなのです。全く無意味ですよね。これで上手く出来ない度に叱られていたら自己評価は下がる一方です、高い可能性で症状は悪化していきます。

 

じゃあ、どうすれば良いか?

 

一つはまず入ってくる余計な刺激を減らすことです、周囲に人がたくさんいて好き勝手行動していて、おもちゃがごちゃごちゃに散らばっていて、テレビが点いていてという状況ではADHDの子は刺激が多すぎて処理できません。だから刺激を減らすのです、少ない人数、静かな環境、整然とした部屋など。通常学級でADHDの子を最前列で教師の目の前の席にするのは、この最も初歩的な方法です。後ろの席では他児の様子が、窓際や廊下側では外の様子が気になってしょうがありません。必要であれば特別支援学級に移ることも、長い将来を考えればためらうべきではありません。刺激の少ない環境で、少しずつ刺激を調整する訓練をするのです。完全に出来るようにならなくても将来社会で自立していけるレベルには持って行けます。

 

もう一つは薬物療法です。ADHDだけ(ASDやMRや学習障害やいじめや虐待などが無い)の児で最も効果が出ます。眼の見えない人の眼鏡に、耳の聞こえない人の補聴器に匹敵するほどです。これは上述の外部刺激を減らすという努力との併用が前提です。通常学級に押し込んでおくために投薬しようとする保護者や先生がいますが、それこそ本末転倒です。

 

あと、薬物治療に関して重要なことがあります。保護者が十分納得理解していない段階で薬を始めては絶対にいけません。学校が保護者に薬を飲むように説得しようとするケースを時々見かけます(教育者として薬に頼らずに良くしてみせるくらいのプライドを少しは持って欲しいもんですが)。子ども本人は自分の状況をよく理解出来ていないので服薬を希望させるまで持って行くのは難しいこともありましょうが、少なくとも保護者が疑問を持っていたら上手く行きません。

 

まとめます。必要なのは、刺激を少なくして落ち着いて行動しやすい環境を調整すること、保護者が十分納得した上での薬物療法です。希望を持って愛情かけて根気よく言い聞かせ続けても、出来る日は来ないかもしれません。だって、気が付いたら動いてしまっているんですから。