栗東よしおか小児科の院長ブログ

滋賀県栗東市で小児科医院を開業しています。小児の発達、小児の病気、開業準備のことなど書いてます。

facebookのコメント欄にいただいたご意見に対するお答え(前回のインフルエンザ関連の記事に関する)

こんにちは。滋賀県栗東市の「栗東よしおか小児科」の吉岡誠一郎です。
 
事務、看護師とも採用が決まりましたが、もうちょっと採用したいので看護師、事務、脳波技師ともにまだ募集中です。よろしくお願いします。
 
前回のブログ記事をリンクしたFacebookの記事に以下のようなコメントがつきました。コメントしてくれた方はうちとは違う地域の小児科開業医の方です。私とは医局も違うし、直接面識が無く、どういう方で、医師としてどういう臨床経験をしてきた方かも全く知りません。共通の知り合いは多いみたいですけども。以前から時々facebookのコメント欄に意見をいただいていましたが、議論になりそうな内容のこともありました。患者さんへのブログの紹介の場にしていたfacebookのコメント欄を医師どうしの議論の場にしたくない旨をお伝えしていたにもかかわらず、再度以下のようなコメントを入れられ閉口し、ちょっと悩んだのですが閲覧をブロックさせていただきました。コメントを削除されて気分を害されているかとも思い、こちらに転載させていただき、返信もさせていただこうと思います。以下引用。
 
吉岡先生。
どんな感染症にも症状の程度に幅があるように、インフルエンザも軽症のお子さんがおられます。軽症なのはインフルエンザではないのか、軽症のまま終わるお子さんなのか、これからが症状の本番なのか診察その時だけでは実際には判断不能の筈です。検査陽性であれば偽陽性の可能性もありますが、軽症のお子さんから罹患したお子さんがインフルエンザ脳症にならないと断言できますでしょうか?不顕性感染というのは先生の定義では感染症ではないのでしょうか?
検査が万能でないように、医師の臨床判断も万能ではありません。先生のお考えはお考えですので、それはプロフェッショナルとして尊重されるべきものだと思いますが、軽い症状の人も見つけ出して地域への感染拡大を防ぎたいと考えている医師やこれ以上感染者を増やさないようにと努力しておられる園や学校のスタッフの考えまで批判されておられるようで、記事の内容こそ混乱を招くと強く感じます。以前、ここは議論の場ではないと仰っておられましたので、ご返信は結構でございますが、受診機会を減らすという意味では良いのかも知れませんが、どうしても看過できない内容でしたので書かせて頂きました。失礼いたしました。
 
引用以上までです。
初めから少しずつ回答していきましょう。インフルエンザウイルスが原因の風邪症状であれば軽症のインフルエンザと言っても良いでしょう。個人的には熱がない軽微な症状なら「インフルエンザ感染症」とは思わなくて良いと話していますが。軽症のまま終わるかこれから症状の本番が来るのかは仰る通り判断不能です。次がちょっとわからないのですが、脳症になっていくのが軽症の子本人なのか?軽症の子を介して感染した子なのか?まあどっちでも良いです。脳症になる可能性はあると思います。不顕性感染も感染症で良いんじゃないでしょうか。医師の臨床判断も万能ではありません、おっしゃる通りです。感染拡大を防ぎたい医師や学校スタッフの「気持ち」を批判する気はもちろん全くありませんが、「考え方」は真っ向批判します(詳細は後述)。
 
要するにこの先生は「インフルエンザ感染者を軽症でも出来るだけ早く見つけて治療and/or 隔離することが、インフルエンザ脳症を防ぎ感染拡大を抑制出来る」と思っておられるものと推測します。ここからは私の考えを述べます。軽症である早期のうちに抗ウイルス薬を開始することがインフルエンザ脳症を減らせるという事実は無いと思います。もっといえば、高熱になったいわゆるインフルエンザ感染症に対しても抗ウイルス薬を投与してもしなくても脳症への進展は変わらないのではないかと思います。インフルエンザ脳症の発症要因はよくわかっていません、脳症のタイプも複数あってそれぞれの病態も違います。あえていうなら遺伝素因(体質)とワクチン接種の有無ではないかと思います。そういう意味では、そもそもタミフルリレンザも不要なのかもしれませんが、私は1日でも早く熱が下がって楽になるならと思って処方しています。
 
軽症を早くみつけて治療、隔離する目的で、インフルエンザ様症状でもない無い子と保護者に、医療機関に行かせること自体が間違いなく感染拡大の原因になっています。インフルエンザではない親子が、本当にインフルエンザや他の感染をもらって帰ってきます。どれだけ院内感染対策をやってるクリニックでも限界があります。本末転倒甚だしい話です。また医療知識の無い学校や園の職員が、医療費と痛みを伴う検査を要求することも非常識であると思います。
 
もう少しグローバルな話も。世界的に日本は圧倒的にインフルエンザ治療薬の使用が多く、それに伴い耐性ウイルスの問題も出てきます。本来、抗ウイルス薬が必要ないような元来健康で軽症の患者にまで投与することで、本当に薬が必要な時に耐性ウイルスだらけになってしまいます。国レベルの医療費も膨大になります。また、医療側の問題も大きく、休日夜間対応している医療機関に軽症患者がインフルエンザ検査と治療を求めて殺到すると、破たんして本来の重症患者が診れなくなってしまいます。小児科医も疲弊してしまいます。
 
以上、コメントいただいた先生への回答(+読者のみなさんに伝えたい私の考え)とさせていただきます。今後、議論になりそうな御意見(つまり反論)があればブログのコメント欄にいただきたいです。承認制なのですぐには公開されないものですが、ご希望なら出来る限り公開いたします。よろしくお願いします。